キャリア理論を現実の人生に活かすカギは「レジリエンス」

仕事でのプレッシャーや対人関係の問題、学業のストレス、健康状態、退職、移動、離婚…

さまざまな人生の局面で転機を乗り越える対処法として、シュロスバーグの4Sモデルは、キャリアコンサルタントにはおなじみの理論です。
一方、レジリエンスも「自分にとっての逆境や試練から立ち直る心の力」と定義されています。
どちらも逆境に対処するために効きそうですが、どんな関わりがあるのでしょうか。今回はこのシュロスバーグの4Sモデルとレジリエンスの関係について探っていきましょう。

転機を迎えたときにチェックしたい4つのリソース

まず、シュロスバーグが提唱する4Sモデルを簡単にご紹介しましょう。転機に直面したら、自分の資源(リソース)である以下の4つのSを点検しよう、というものです。転機による変化を受け入れ乗り越えて、キャリアを形成していく方法としてよく知られています。

ステップ1: 状況を理解する (Situation)

逆境の状況について、具体的・客観的に何が起きているのか、それを自分はどう捉えているか、原因は何か、いつまで続くものかなどを分析します。

ステップ2: 自分自身を知る (Self)

この状況に対する自分の気持ちや反応を理解し、受け入れてみましょう。自分自身はどうしたいと思っているのか、自分のスキルや過去の経験が活かせるかなども見直しましょう。

ステップ3: 支援を求める(Support)

逆境に一人で立ち向かう必要はありません。どこでどのような支援が得られるのかを調べたり、身近な人に具体的なサポートを求める勇気を持ちましょう。

ステップ4: 戦略を立てる (Strategies)

ステップ1から3で見つけた状況・自分自身・支援を使って、状況を変える・自分の気持ちを切り変える・ストレスを減らすなど様々な面からこの逆境を乗り越えるための戦略を立てましょう

この4つのSを点検していけば確かに対処の道筋が見えてきそうです。しかし逆境の時には、ネガティブな感情に支配されて視野が非常に狭くなっていたり、自己肯定感が下がって自分の資質が適切に見出せなかったり、支援を求める勇気が出なかったり、ということが起こりがちです。

ここで力を発揮するのが、レジリエンスです。

レジリエンスを支える5つの力

レジリエンスとは自分にとっての逆境や試練から立ち直る心の力です。 「自尊心」「自己効力感」「感情調節」「現実的楽観性」「人間関係」の5つの力によって支えられています。

自尊心:自分を大切にする力、ありのままの自分を肯定する力。

自己効力感:「やればできる」と思える力。

感情調節:自分の気持ちに気づき、対応する力。

現実的楽観性:出来事をバランスよく見る力。

人間関係:誰かを助け、誰かに助けられるつながりの力。

私たちは、これら5つの力を状況に応じて発揮していくことで、たとえ落ち込んだとしても立ち直っていくことができます。

4Sの各段階でレジリエンスを発揮する

レジリエンスの高い人は、この4Sの各段階で、レジリエンスの5つの力を発揮して、逆境に対処していくことができます。それでは、4Sのどの段階で、レジリエンスのどの力をどのように使っているかを見ていきましょう。

ステップ1:状況を理解する (Situation)

  • 自尊心が高いと:自分や相手を責めずに問題を理解できる。
  • 感情調節のスキルが高いと:逆境の状況を客観的に具体的に把握することができる。
  • 現実的楽観性が高いと:逆境の中でも自分のできることを見つけやすい。

ステップ2:自分自身を知る(Self)

  • 自尊心が高いと:自分の強みと弱みを受け入れやすく、自己認識が向上する。
  • 自己効力感が高いと:自分の能力や過去の経験を活かすことができる。
  • 感情調節のスキルが高いと:自分の感情を理解し、感情のコントロールができる。

ステップ3:支援を求める(Support)

  • 自己効力感が高いと:新しいアイディアや他人の助けを受け入れやすい。
  • 現実的楽観性が高いと:一つの案にこだわらず、様々な可能性に目を向けることができる。
  • 人間関係力が高いと:支援を求める際に他人に頼ることができる。

ステップ4:戦略を立てる (Strategies)

  • 自己効力感が高いと:困難な状況に対する解決策を見つける自信を持ちやすい。
  • 感情調節のスキルが高いと:冷静に問題に対処する戦略を選ぶことができる。
  • 現実的楽観性が高いと:問題に対して建設的な戦略を考えやすい。
  • 人間関係力が高いと:他人と協力して解決する策の考案が得意。

いかがでしょうか。あなたも、ご自分が乗り越えてきた逆境を振り返って、「確かにいつもそうしているな」と納得できるところもあれば、「ここがいつも弱いんだよね」と思うところもあったのではないでしょうか。

レジリエンスを支える5つの力全てが100点である必要はありません。自分の力のデコボコを知れば、できないことに固執せずに力を借りたり、他の方策を考える柔軟さが生まれてきます。また、レジリエンスは、意識することで自然に身につくだけでなく、さらに鍛えていくこともできます。

逆境を乗り越えるための4Sモデルを推進していく鍵になるのが、レジリエンスです。今回は、この二つの関連の探究を通して、ご自身のレジリエンスも振り返っていただくきっかけにもなれば幸いです。

(JREA理事 坂倉裕子)

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